Division of Drug Informatics 慶應義塾大学薬学部医薬品情報学講座

臨床予測モデルは，病気や治療の副作用リスクなどを予測し，より良い医療の提供をサポートするツールです．しかし，数多くの予測モデルが研究で報告されているにも関わらず，実際の医療現場では十分に活用されていないのが現状です．その理由として，予測モデルが異なる集団でも有効かどうかを評価する外部検証が不十分であること（一般化可能性が不明），予測の根拠が分かりにくいこと（ブラックボックス化），医療従事者が短時間で簡単に使いこなせないこと（簡便性の欠如）などが挙げられます．
当研究室では，これらの課題に取り組むため，「骨修飾薬であるデノスマブの投与による低カルシウム血症」を例に，予測モデルの構築，外部検証，さらに医療従事者を対象とした有用性評価を行ってきました．
この研究を一例に，予測モデルを臨床実装するための研究が活性化し，将来様々な予測モデルが医療現場で活用され，臨床が発展することを期待しています．

予測モデルの開発研究は，モデル構築（内部検証を含む），外部検証，および臨床現場における影響評価という3つの主要な段階に分かれています．しかし，これまでの報告のほとんどはモデル構築に関するものであり，外部検証研究を実施した研究は限られ，さらに臨床的影響や有用性を評価した研究はごく少数にとどまっています．そこで本研究では，「デノスマブ誘発性低カルシウム血症」を例に，予測モデルの構築から外部検証，病院薬剤師を対象とした有用性評価までを一貫して実施しました（下図左）．

本研究では，識別性能（高リスクと低リスクを分類する性能）を主な評価指標としました．初期モデルでは施設間で性能にばらつきが認められましたが，モデル変数の再検討によりばらつきの小さい更新モデルの構築に成功しました．外部検証を実施した後，更新モデルをスコアシートとして共同研究施設に配布し（上図右），業務時間外で試用を依頼しました．モデル試用後に有用性および課題に関する質問紙調査を実施しました．

Publications

Keisuke Ikegami, Masayuki Hashiguchi, Hayato Kizaki, Osamu Yasumuro, Ryohkan Funakoshi, Satoko Hori.Development of Risk Prediction Model for Grade 2 or Higher Hypocalcemia in Bone Metastasis Patients Treated with Denosumab plus Cholecalciferol (Vitamin D3)/Ca Supplement. J Clin Pharmacol. 2022;62(9):1151-1159.
(https://doi.org/10.1002/jcph.2057)

Keisuke Ikegami, Shungo Imai, Osamu Yasumuro, Masami Tsuchiya, Naomi Henmi, Mariko Suzuki, Katsuhisa Hayashi, Chisato Miura, Haruna Abe, Hayato Kizaki, Ryohkan Funakoshi, Yasunori Sato, Satoko Hori*. External Validation and Update of the Risk Prediction Model for Denosumab-Induced Hypocalcemia Developed From a Hospital-Based Administrative Database. JCO Clinical Cancer Informatics. 2024;8:e2400078.
(https://doi.org/10.1200/CCI.24.00078)

Keisuke Ikegami, Masami Tsuchiya, Shungo Imai, Yukiyoshi Fujita, Osamu Yasumuro, Hayato Kizaki, Ryohkan Funakoshi, Yasunori Sato, Satoko Hori*. Validation of Risk Prediction System for Denosumab-Induced Hypocalcemia with an External Clinical Dataset. Biol Pharm Bull. 2025;48(6):860-863.
(https://doi.org/10.1248/bpb.b24-00768)

Keisuke Ikegami, Masami Tsuchiya, Hayato Kizaki, Shungo Imai, Osamu Yasumuro, Chiaki Sato, Yukiyoshi Fujita, Ryohkan Funakoshi and Satoko Hori*. Assessing the utility and challenges for implementation of a risk prediction system: a usability study with hospital pharmacists. J Pharm Health Care Sci. 2025;11(1):96.
（https://doi.org/10.1186/s40780-025-00499-2）

Presentations

池上慶祐，橋口正行，木﨑速人，堀里子．大規模診療データベースを用いたデノスマブ投与による重篤な低Ca血症発生状況に及ぼす患者背景の検討，日本薬学会第141年会，広島．2021年3月（口頭発表，査読あり）

Keisuke Ikegami, Masayuki Hashiguchi, Hayato Kizaki, Osamu Yasumuro, Ryohkan Funakoshi, Satoko Hori. Development of risk prediction model for hypocalcemia in bone metastasis patients treated with denosumab plus natural vitamin D/Ca supplement，ISPE’s 13th Asian Conference on Pharmacoepidemiology (ACPE 2021), Korea, October 2021（ポスター発表，査読あり，Spotlight poster選出）

池上慶祐，今井俊吾，安室修，舟越亮寛，木﨑速人，堀里子．医療ビッグデータから構築したデノスマブ誘発性低Ca血症リスク予測モデルの外部検証，第25回日本医薬品情報学会総会・学術大会，京都．2023年6月（ポスター発表，査読あり）

Keisuke Ikegami, Shungo Imai, Osamu Yasumuro, Masami Tsuchiya, Naomi Henmi, Mariko Suzuki, Katsuhisa Hayashi, Chisato Miura, Haruna Abe, Hayato Kizaki, Ryohkan Funakoshi, Yasunori Sato, Satoko Hori. External Validation and Update of the Risk Prediction Model of Denosumab-Induced Hypocalcemia Developed from Medical Big Data for Clinical Use, FAPA (The Federation of Asian Pharmaceutical Associations) 2023, Taiwan, October 2023（ポスター発表，査読あり）

Keisuke Ikegami, Shungo Imai, Osamu Yasumuro, Masami Tsuchiya, Naomi Henmi, Mariko Suzuki, Katsuhisa Hayashi, Chisato Miura, Haruna Abe, Hayato Kizaki, Ryohkan Funakoshi, Satoko Hori. External Validation of a Risk Prediction Model of Denosumab-Induced Hypocalcemia Developed by Analysis of Hospital-Based Administrative Database, 第33回日本医療薬学会年会，仙台．2023年11月（口頭発表（International Session），査読あり）

池上慶祐，土屋雅美，今井俊吾，藤田行代志，安室修，木﨑速人，舟越亮寛，佐藤泰憲，堀里子．新規外部データセットを用いたデノスマブ誘発性低Ca血症発症リスク予測モデルの一般化可能性の検証，第18回次世代を担う若手のための医療薬科学シンポジウム，金沢．2024年10月（ポスター発表，査読あり）

この研究は，JSPS 科研費 特別研究員奨励費「リアルワールドデータを駆使した薬物治療の安全性向上のための個別化医療の実現」の一環として行われています（2024年-2026年）．

この研究は，亀田総合病院薬剤部，宮城県立がんセンター薬剤部，群馬県立がんセンター薬剤部との共同研究として行われてきました．

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